sin binのない社会

ラグビーは紳士のスポーツと呼ばれているそうです。

大きな体の男性たちが荒っぽくぶつかるスポーツなので

たくさんの細かなルールがあるらしいですね。

解説者がそのことを指して

「選手たちもそのルールを全部知らないんじゃないか」

と冗談めかして言っているのを聞きました。

ルールを知らずにプレーをしていたとしても

相手選手を傷つけるような危険なプレーがあれば

ペナルティが課されます。

「sin bin(罪のいれもの)」

というペナルティがあるそうです。

ルールに違反した人を、牢に入れて晒しものにし

反省を強いるというペナルティです。

性暴力とは違って

「そんなつもりはなかった」

「ルールを知らなかった」と言っても

罪が軽くなることはないそうです。

こうした多くのルールとペナルティは

安全で公正なゲームを作り出すためのものです。

危険な行為は罰されます。

だから審判もよく観ています。

ジャッジがしっかりしていないと

優秀な選手たちが次々と負傷してしまって

試合になんてならないからです。

そうでなければ参加できないというのが

まともな感覚ではないでしょうか。

社会もそうだと思います。

性暴力について言えば

わたしたちはルールすら整備されていない

危険なフィールドで生活しています。

このフィールドでは倒されたい放題で

倒されて怪我をしたら、治療費は自分持ち。

わたしは被害に遭ったことで仕事を失い

社会から退場もさせられて

引きこもるしかありませんでした。

現状、日本でsin binに入れられているのは

わたしたち被害者の方ではないでしょうか。

女性の15人に一人が生涯において性暴力に遭う日本。

しかも倒された方がsin binに入れられる。

そんな危険なゲームには参加できないというのが

まともな感覚ではないでしょうか。

わたしは男性の体を直視できないので

ラグビーを観戦することが出来ませんが

薄く開いた瞼の隙間からテレビを観て、ぼんやりと

自分は

あれよりももっと危険なフィールドで生活し

あまつさえ活躍することを求められていたのだな

と思いました。

加害者には男性が多いけれど

わたしは、ただ「男性だ」というだけで

一括りにしているわけではありません。

本来、ルールを破ること自体を目的とする人や

ルールが整備されていないことを利用する人

ルールにかかるかどうかの微妙な線で加害をする人

審判の目を盗んで加害行為をする人というのは

わたしたち被害当事者にとってだけでなく

この社会に参加する多くの人にとっても

由々しき存在だと思います。

フェアプレーを重んじるという点によって

ラグビーが紳士のスポーツと呼ばれるのだとしたら

日本は紳士的な社会ではないのかもしれません。

暴行脅迫要件のある刑法

13歳の壁がある刑法は

性暴力被害の実態に照らして

フェアとは言えないからです。

世代を超えて、性差を越えて

この問題を話し合うことこそが

紳士らしい態度ではないでしょうか。

(池田鮎美)

※2019/11/12、すぷだよりに寄稿。その後2023年6月に刑法は改正された。

/ すぷだより