靴ひもを結び直す朝に
性暴力について考え、語り
つながる「場」がひとつ
失われようとしている。
2025年9月30日に
NHK「性暴力を考える」サイトが
閉鎖されると発表された。
このサイトは2019年に
性暴力取材に取り組みたいと考える
有志の記者たちによってスタートし
性暴力被害の実態や
性暴力被害者のその後の歩み
加害者が生み出される社会構造など
あらゆる視点から
社会課題としての性暴力を伝えてきた。
2023年 刑法改正の過程では
性暴力被害者たちに伴走し
その想いを伝えつづけた。
性暴力被害者はもちろん
自分の経験は性暴力なのかと悩んでいる人
家族や友人が性暴力被害にあって
どうしていいかわからない人
初めて性暴力事件を弁護するという人
性暴力被害者を支援したい人など
さまざまな人がこのサイトを訪れた。
2022年には同サイトをつうじて
アンケート調査が行われ
38,383件の回答があった。
これは世界的に見てもまれな規模の
性暴力の実態調査となり
この結果が法改正を後押しした。
241の記事に対する
2,391件のコメントのなかには
今まで誰にも言えなかった被害を
告白するコメントも多く
そのコメントは
「今はまだ被害を言葉にできない」
という人を励ましつづけた。
ここにくれば
そのままの自分で
誰かとつながることができた。
そのような場は他になく
全ての人にとって欠くことのできない
プラットフォームとなった。
ここで被害者同士がつながることで
それまで社会の中で見えなかった
性暴力というものが可視化された。
このサイトを礎にして
わたしたち当事者は
社会に飛び出していった。
「性暴力被害者です」と名乗り
「性暴力についてはよくわからない」
と言われると
「じゃあこのサイトを見てください」
と伝えることができた。
NHKのサイトだということで
他にはない信頼感があった。
だからこそわたしたちは
そのままの自分で
社会に出ていくことができた。
性暴力について考え、語り
つながる「場」を
このサイトの外へ、社会へと
拡げていくことができた。
報道の役割とはこのようなものなのだと
信じて疑ったこともなかった。
ところが、このサイトが失われると
知ってからというもの
まるで自分の生活の土台が
液状化してしまったかのように感じている。
どのようにして自分が負った障がいを説明し
自分の生命や身体の安全を
確保すればいいのかが
今はまだ、わからない。
それでも朝は来る。
皆で作り上げてきたこのサイトが
なくならないと信じた自分が
愚かだったのか?と
自問する朝もある。
今はまだ、その答えがわからない。
このようにして一瞬で失われるものを
これからも報道と呼んでいいのだろうかと迷う。
その答えもまだ、わからない。
それでも毎朝
わたしたちは靴ひもを結び直し
公平・公正で
信頼できる社会の実現を夢見る。
「このサイトの記録を
現実的な形でこれからも
生活に役立てられるようにしてほしい」
そう願い、署名を立ち上げた。
わたしらしくない。
でもやめない。
報道、それは歴史を動かすものであり
わたしたち公衆の人生の記録であり
未来の土台そのものだからだ。
(2025年9月23日)
「すぷだより」No.180に寄稿しました。