かつて子どもだったすべての大人たちへ

ここに一冊の本がある。
『こども六法』(弘文堂)という本だ。
2023年に改正された後の
新しい刑法性犯罪規定が反映された版を
うちの娘たちも愛読している。
娘たちだけではない。
娘たちのクラスの子どもたちの間では
この本を読むことが流行していて
男の子も女の子も
順番に回し読みをして
感想を言い合うらしい。
何が悪いことで
なぜそれをしてはいけないのか?
大人たちのつくった
社会のきまりを理解したいと
彼らは考えているのだ。
そんなある日のことだった。
わたしはたぶん
その日のことを一生忘れないと思う。
図書館で一人の女の子が近づいてきて
この本の不同意わいせつについて
書かれているページをつまんで
「ここにわたしのことが書いてある」と
静かに言った日のことを。
彼女はそれ以上のことを語らなかった。
それでも目が語っていた。
「わたしは自分に起きたことを
ちゃんとわかっているよ」と。
この文章でわたしは
この子の件についてはこれ以上書かない。
ただ、子どもたちはよくわかっている。
大人よりもよくわかっている。
悪いことをしたら
謝ったり
償ったり
二度と同じことを繰り返さぬよう
努力したりするものだということを。
周囲の大人は全力で
それをサポートするはずだと
信じているのだ。
わたしたち大人はどうだろうか。
悪いことをした人に
「それは悪いことだよ」と言い
更生させることができているだろうか。
性暴力が起きたとき
「それは性暴力だ」と
認識することができているだろうか。
「同意があったと思い込んでいた」
と言う加害者に対して
沈黙せず
同意とは何なのかを語り
「君はちゃんと同意を取ったのか」と
問うことができているだろうか。
実際にはこうだ。
2023刑法改正の後も
同意誤信の判決が相次いでいて
加害者をちゃんと裁き
更生させることはできていない。
はっきり言う。
それは刑事司法に関わる機関や人びとの
勉強が足りていないためだ。
法改正の趣旨を理解しておらず
惰性で仕事をしているためだ。
「不同意わいせつ」という
罪名すら知らない警察官や
強姦神話から抜け出せておらず
法の趣旨に沿った立証ができていない検察官
法務省の通達もよく読まずに
同意誤信の判決を連発する裁判官。
はっきり言ってあなたたちよりも
子どもたちの方がよくわかっている。
佐藤幸治という憲法学者は
こうした官僚の働きぶりを
「国民に対する責任の欠如」と言い表した。
そして「公共の空間は
決して官僚の独占物ではない」
「制度や法に魂を入れるのは
政治家でも官僚でもなく
国民でなければならない。
監視し、声を挙げるという
具体的なかたちで
国民が行動を起こさない限り
何も変わらない」と
書き遺している。
わたしたち大人が
「法に魂を込める」姿を
見せることができなければ
子どもたちは一瞬にして
社会や政治に対して
大人に対して
白けた気持ちを持つだろう。
そして白けた大人になるだろう。
次の刑法改正まで3年。
刑事司法に関わる機関や人びとが
法に魂を込めるのか、それとも
「同意があったと思い込んでいた」
と言う加害者に対し
再び沈黙するのか。
しっかりと見るつもりだ。
(2025年3月25日)

「すぷだより」No.168に寄稿しました。

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